柳鏡

「鏡斎に贈り物ネェ?」

それは、何と言うか、無謀な挑戦ではないだろうか。
喉元まで出かかった言葉を飲み込み、圓潮は真剣に聞いてくる柳田を見た。


「何かいい案はありませんか、師匠」
「紙、筆、墨、顔料、膠、硯、どれでも好きなものを選んだらどうだい?」
「それ以外でお願いします」
「ないよ」

即答をすると、柳田は一瞬凹み、次の瞬間には猛然と質問をしてきた。


「例えば、何か食べ物とか」
「美味い不味いの一言もなく無反応に近くてもいいなら、それにしなさい」
「服とか」
「着たきり雀に近い鏡斎の生活を見ても言えるのかい?」
「鏡斎の来るものとか、は……?」
「それは逆に聞きたいネェ」



一通り案が出尽くしたのか、柳田は口を閉じて落ち込み始めた。
いきなり質問して落ち込む柳田を眺め、圓潮は軽くため息を吐いた。


「……そもそも、何であたしが鏡斎の好みを知ってると思うんだい?」
「圓潮師匠に知らない事があるんですか?」



驚いたように言う柳田に、圓潮は頭が痛いと額に手を当てた。



耳が痛い
「柳田、あたしにだって知らない事はあるよ」


end
(2012/08/11)
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