その他

「またあの二人かい」

地下の空間に響き渡る声に、圓潮は額に手を当てた。
だんだんと酷くなっていく口論に、和書を閉じてから立ち上がった。


「ボクはこんなに暗い場所で描いたら目を悪くすると言っただけ哉!」
「……余計なお世話だ」
「口を開けばボクの事を、煩い、黙れ、余計なお世話だって君は言うけどね、鏡斎!」
「煩いのは事実だろ」
「君の為を思って言ってるだけ哉!」
「オレあんたの事嫌いだ。邪魔だから地下から出てけよ、柳田サン」
「そこまで言う哉、普通! ボクだって君の事嫌い哉!」
「……本当に煩いな」
「なっ!?」


「止めなさいお前さん達」

カッとした柳田が手を出す前に、間に圓潮は割り込んだ。
鶴の一声を発した相手に、双方驚いたような顔で圓潮を見た。


「圓潮! 何の用哉!」
「柳田、今の鏡斎の言葉は冗談だよ」
「じょ、冗談!? 冗談であれだけの暴言を吐いたの哉?!」
「……圓潮。オレは本気で」
「少し黙ってなさい、鏡斎」


いいから黙ってろと言外に含める圓潮に鏡斎は口を噤んだ。
そんな鏡斎の態度も、柳田にとっては火に油を注いだようなものだった。


「圓潮! そこにいる鏡斎の暴言は冗談なんかじゃなかった哉!」
「あー、柳田。あたし達がまだ生まれて間もない事は知ってるネ?」
「それは……そうですけど」
「分かるだろう、柳田。まだ不安定な部分も多くいるんだよ」
「そこにいる鏡斎も、ですか?」


どう考えても他の部分よりは普通に見える。
むしろ不安定とは真逆を行っているような気がする相手だ。
疑問の目を隠そうともしない柳田に対し、圓潮は当然の様に頷いた。



「ああ、そうだ。特に鏡斎は奴良組の二代目に切り落とされた〈腕〉だからネェ。
 他の部分に比べて強制的に生まれたんだ、不安定で多少は素行が悪くて当たり前だろう?」

とうとうと語られる言葉に、柳田は怒りを鈍らせた。


「そう…ですか」
「分かってくれたかい柳田?」
「……はい」
「そうかい。鏡斎には後であたしがよく言っておくよ。お前さんは〈脳〉の所へ行きなさい」


言葉通りに柳田が〈脳〉の所へ行くのを見送った後で、圓潮は大きくため息を吐いた。



「鏡斎。柳田に余計な口をきかないでおきなさい」
「……意外と嘘つきだな、圓潮」
「嘘も方便だよ。まだ柳田が完全に信用してるわけでもないからネェ」

余計な波風はたてない方が得策だと圓潮は冷静に返した。


「あんた性格わるいな」
「お前さんが素直すぎるだけだよ」


これで本当にやっていけるのかと、地下生活を初めて数日で圓潮は疲れを感じた。



生活の始まり
「早めに地上に出たいネェ」


end
(2013/04/01)
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