その他

「おや、久しぶりだネェ、柳田。良い噺を集めてこれたかい?」

戻ってきたばかりの柳田を労うように言った圓潮は、相手からの笑みに成果を理解した。


「圓潮師匠、この後ボクは鏡斎の所へ寄ろうかと思いますが、鏡斎の様子はどうですか?」
「さぁ、どうだろうネェ」

最近とんと行ってなくてネ、と返す圓潮に柳田は首を傾げた。


「圓潮師匠が見に行ってると思っていたんですけど?」
「あたしは最近行ってないよ」
「じゃあ誰が鏡斎の様子を?」
「さぁネェ? 雷電、珠三郎、お前さん達は最近行ったかい?」

話を振ってきた圓潮に、近くで駄弁っていた雷電は即答した。

「オレと珠三郎はかなり前に行ったきりだぜ?」
「お前さん達もかい」

特に当番も決めず適当に様子を見に行ってたから、こうもなるかと半ば納得しながら圓潮は流した。
さして気にも留めず、いままでの話の流れを聞いていた珠三郎は少し考えたのち口を開いた。


「……ねぇ、それじゃ最近誰も見に行ってないんじゃないの?」

珠三郎の言葉に、暫くその場が沈黙した。


「うぉ!? 野たれ死んでんじゃねぇぞ鏡斎!!」

意の一番に青蛙亭を出た雷電は、若干青ざめた顔で叫んだ。

「まったく、どうして安心して一人暮らしを任せてられないのかネェ」
「圓潮師匠。鏡斎だから仕方ないですよ……」

雷電に続くように小走りに鏡斎の家へと向かいながら、圓潮と柳田はため息をついた。




「……心配性すぎだろ」

発見と同時に強制的に寝床へと連行された鏡斎は、呆れた調子で呟いた。
随分前に見た時より明らかに細くなっている相手へと圓潮は言い返した。

「寝食忘れて絵を描き続けてた人物には言われたくないネェ」
「ボク達だって君がまともな一人暮らしをしていれば心配はしない哉」

「ねぇ! お粥ってどうやって作るのよ!?」
「おい珠三郎! 鍋から煙が出てるぜ!?」

台所で戦場並みの騒ぎが起きているのを、やや無視しながら圓潮と柳田は鏡斎へと釘を刺した。
強制的に布団に寝かされた鏡斎は不貞腐れたように反論した。


「オレは一人でも暮らせる」

「寝言は寝て言いな」

ペチリと扇で鏡斎の額を叩く圓潮。
不本意だと顔に書いてある鏡斎へと布団を掛け直しながら、柳田は真面目な顔で断言した。


「鏡斎。今君に必要なのは十分な睡眠と食事だよ」

ただでさえ忘れやすい体質なんだからと憂い気に言う柳田に、呆れた顔で鏡斎は言い返した。


「柳田サン、人間じゃないんだからそこまで……」

過保護にならなくても、とは続けられず鏡斎は口をつぐんだ。


「鏡斎。反論があるようなら、あたしにも面と向かって言える内容だろうネ?」
「…………」

視線をそらす鏡斎に、根本的に対応を考え直すべきかと圓潮はため息を吐いた。



当番制前
「次からはこうならないよう、当番でも決めとこうかネェ」


end
(2012/01/27)
2/6ページ