圓鏡

「お前さんの足を切って、また何処にも行けないようにしたいネェ?」


何十年、いや何百年か前だったか、鏡斎の両足を踝あたりから切り落とした事があった。
あの時は確か、面倒くさそうに、それでもお前さんはあたしの事を許したネェ。

本当に、出来る事ならこんな感情なんざいらなかったよ。
それでも、ふとした時に不安になるから仕方ない。

もっとも、切ったところで何処にも行かないなんて保証はない。
鏡斎は両足を切り落とした程度じゃ閉じ込めてはおけない。
またサラサラと自分の足を描いて元通り。

気休め。
そんな言葉がぴったりだネェ。

それでも何の気まぐれか、切られた足を描いて戻そうともせず、そのままにしてた時期もあったネ。
あんたが切ったんだから、あんたが世話をしてくれ、なんて可愛い事を言って。

筆を握って絵を描く事さえ出来れば、鏡斎にとっては満足なんだろうネェ。
歩けなくなっても座って日がな一日絵を描いてたよ。
あたしの気が済むまで、よく飽きもせず付き合ってくれたもんだ。


嗚呼、その目はまた、あたしの望む言葉を言う気だネ?
止められなくなったら、どうするんだい?



悪循環
「……あんたが望むなら、切ればいい」


end
(2011/11/04)
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