雷鏡

「オレが運んでやるって言ってんのによぉ、わざわざ歩くのかよ?」


鏡斎の隣を歩く雷電は口を尖らせながら訊いた。
雷電からのふて腐れた調子での問いに対し、鏡斎は一瞥もくれずに答えた。


「……米俵か荷物のように運ばれると腹が痛い」
「じゃあ横にこう、両手で抱えるか?」
「笑い者にさせる気か」


誰が好き好んで笑い者になりたいと言うのか。
そんな不名誉な運ばれ方をされれば青蛙亭に着いた途端に笑われる。


「歩くのおせーから聞いてんのによぉ」


人の親切心を無下にしやがってと口では愚痴りつつ。
のろのろと歩く鏡斎の隣で雷電は早く着く方法を暇つぶしに考え始めた。


「何かこう、何とかドア描いて出せねぇのか?」
「オレは青タヌキか」
「それか青蛙亭で掛軸開くと召喚! とかよぉ」
「…………」
「お! 出来そうか?」


期待を込めた目でワクワクとしながら鏡斎の回答を待つ雷電。
暫く無言だった鏡斎は端的に結論を口にした。


「無理だな」
「無理かー」
「テレビの見過ぎだ」
「いけると思ったんだけどなぁ?」

基準がよく分からんと興味を失ったようによそ見を始め。
ぼーっとしながら雷電は鏡斎の隣を歩いていった。



移動中
「なあ、やっぱよぉ…」
「……却下」
「まだ何も言ってねぇだろ!?」


end
(2020/01/01)
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