雷鏡

「鏡斎! 菓子くれ!」
「……なに言ってる?」
「今日は他人から菓子を分捕れる日なんだろ」


圓潮から聞いたぜ、とワクワクしながら言う雷電。
そんな行事は聞いたこともないと鏡斎は眉間にシワを寄せた。


「そんな都合のいい日、ある訳ないだろ」
「圓潮が言ってたから絶対ある!」
「…………」


断言する雷電は菓子を貰うことしか考えていないようだった。
面倒事を押し付けるなと思いながら、家の食糧状況を思い出し、鏡斎は端的に答えを返した。


「菓子はない」
「ないのか! ないんじゃしょうがないよな!」


菓子がない事でがっかりしてさっさと帰るかと思いきや。
菓子を要求した時以上に雷電は嬉しそうに目を輝かせた。


「よく聞けよ鏡斎! ない時はな!」


答えを教えようとする状態で雷電は固まった。
続く言葉をいつまで経っても言わない相手に、先を促す様に鏡斎は聞き返した。


「ない時は?」
「ない時はな! ……えーと…ちょっと待てよ……ない時は」
「……ない時は?」
「ない時は! ……何だっけ…何かあったんだよな……スゲー楽しそうなことが」


一生懸命に圓潮の言葉を思い出そうと、頭を振り絞る雷電。
おそらく、その答えは一生出ないだろうなと思いつつ、鏡斎は筆の柄で頭を掻いた。


菓子と何かの日
「……思い出したら声かけろ」


end
(2013/11/01)
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