柳鏡

「君が生きていてくれただけで十分哉」


何処か必死な柳田に見つけられ、泣き笑いのような顔で言われた。
泣きじゃくりながら抱き着いてくる相手をどこか他人事のように眺めた。


綺麗に消された地獄絵図。
死に損なった重傷の体。

そんな状況でよく十分だと言えるものだと相手の思考の単純さを感じた。



それとも、まだ〈山ン本〉の為に使うつもりなのか。


誰か言ってやればよかったものを、全員が面倒くさがって黙り込んだせいだ。
端から一部を抜かして、そこまで〈山ン本〉の復活は望んでいなかったと言えばよかったのに。

〈山ン本〉の一部だったのだから復活を願うのは当たり前だと考える相手はどうしようもなく馬鹿だ。
何もかも自分の都合よく考え、先の見えない復活劇を望む可哀想な妖怪。



『……結局、あんたはオレを〈山ン本〉の〈腕〉としてしか、見てないんだよな』


分かり切っている事がふつりと浮かび、ゆるく口元に笑みが浮かんだ。
ふと、答えは分かっていても目の前の相手に訊きたくなった。



もう描けないと言ったら――


それでも
あんたはオレを必要とするのか?


end
(2012/06/21)
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