圓鏡

「今年も青蛙亭で誕生日会を開くが、お前さんは来るかい?」
「……気が乗らない」


行く気などさらさらないとばかり答える鏡斎。
端から来ないだろうと予想していた圓潮は、強要はしなかった。


「まあ、妥当な判断だネェ」
「あんたは参加するのか?」
「するよ。何せ奴良組に潜入してる〈山ン本さん〉が参加するからね」
「大変だな」
「仕方のない事だよ」


本来ならば自分とて参加などしたくはないと圓潮はため息を吐いた。
何が悲しくて、毎年のように誕生日と親父の命日を同時にしなければならないのか。


「まったく、迷惑な話だネェ」
「それで? 用ってのはそれだけか」
「後は一日早いがお前さんへの誕生日プレゼントがあるぐらいだよ」


持ってきた物を鏡斎の前へと圓潮は出した。
目の前に置かれた物を鏡斎はさっそく手に取り眺めた。


「……筆か」
「お前さんにはそれが一番だろう?」


気に入らなかったかと問えば、否定が返ってきた。


「あんたが選ぶのは、よく手に馴染む」
「そう言われると選んだかいがあって嬉しいよ」


弘法筆を選ばず。
例え手に馴染まずとも鏡斎ならば気にすることも無く描けるだろう。
それでも、ささいな違いかもしれないが好みがある事には違いない。
気に入る物だけを与えたいと思うのは、ただの自己満足かもしれないが止めようとは思わなかった。


「オレもあんたに、プレゼントがある」
「おや、珍しいね。何をくれるんだい?」
「あんたの子供」


鏡斎からの予想外の答えに、少し理解するのが遅れた。


「……ああ、そろそろ代替わり工作の時期だったネェ」
「必要だろ?」
「そうだネェ。今回もお前さんが産んでくれると助かるよ」


長年、人間相手に噺家として活動する弊害対策とも言える。
圓潮と言う人物に対し、疑問を抱かせないための必要不可欠なモノ。
馴染の店や弟子達や世間に、同一人物ではないと思わせるための子供。
珠三郎に頼んだこともあったが、やはり鏡斎の作品が一番良い。


実用的な贈物
「しかし、どうしてこうあたし達は実用重視なのを互いに選ぶんだろうネェ?」
「……さぁな」


end
(2015/05/07)
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