圓鏡

「あの噺は良い出来だったネェ。よくよく頑張ってくれて」
「……どの噺の事だよ?」
「自分以外の作品が嫌いだった噺さ」
「圓潮。それじゃ全部になる」
「ああ、そうだったね」

どうにも印象として出てくるのが似通ってしょうがない。
圓潮は苦笑しながら、鏡斎が産み出した作品達を思い浮かべた。
どの作品も多少の出来不出来はあるにしても、共通して残忍だった。

「××村の噺だよ。犠牲者も大勢出て、いい噺だった」
「……消されたのか?」

過去形で話す圓潮の口調から、いい噺ではあったが消えていったと鏡斎は判断した。


「いや。残ってはいるが、人は新しいものを優遇するからネェ」

すでに違う噺へと人の興味は移り変わっている。
もっとも、人に忘れ去られる事が消滅と同じ怪談妖怪にとっては、かなりの痛手だ。

「まぁ、下火になってもまた流行り出すさ」

そんなものだと、長年人のさがを眺め続けた噺家は呟いた。
流行り廃りも一時の事。
犠牲者が出たなら、下火になろうと根強く残る。


「楽しみだネェ」

また流行り出す時が、と確信に似た口調で圓潮は鏡斎へと言った。
いまいち人の心が分からない画師は首を傾げるだけだった。


end
旧:拍手文
(2013/1/22~2/11)
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