圓鏡

「あんた、ようやく身を固める気になったのか」


いかにも好々爺と言った風情で縁談話を持ってきた鏖地蔵と〈脳〉。
その、いかにも頭に花の咲いた長話から逃げた先での鏡斎からの一言に、一気に脱力をしたくなった。


「……誰から聞いたんだい、と聞くまでもないネェ?」


あのお喋りが、と面の皮の厚い人物を思い出しながら圓潮は忌々しげに呟いた。
そんな相手の様子を全く気にせずに鏡斎は聞き直した。


「で、するのか? 結婚」
「しないよ。縁談なら全部断った」
「……もういい歳だろ」
「鏡斎。あたしとお前さんは同じ歳だと思ってたけどネェ?」



独り者は其方も一緒だろと言外に含ませる圓潮に、鏡斎はさも当然と言い返した。



「圓潮。オレは子なら沢山いる。あんたはいない」
「元になる種と、その半分以上を育てたのはあたしのはずだよ」


親権争いなら負ける気はしない、が、今はそんな話で争う気はない。



「鏡斎。どうせなら、あたしと結婚しないかい?」
「…………」
「あたしの収入からすれば、お前さんを養うことぐらい訳無い話だ。結婚さえすればヤレ縁談だ見合いだと言われずに静かに暮らせるんだけどネェ。
 それが駄目ならあたしに似た子を産んでくれないかい? 青蛙亭の近くで遊ばせておけばそれとなく周りの人間達から察してくれると思うが、どうだろうね?」


普段なら絶対に言わない浅はかな提案をする圓潮は、真面目すぎる顔で鏡斎を見つめた。
真剣な目で見てくる圓潮を前に、鏡斎は筆の柄で頭を掻いた。



わるかった
「圓潮……あんた、相当疲れてるな」


end
(2013/01/04)
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