圓鏡

「まったく、もう少し長く持ってもらわないと楽しみがどんどん減ってくネェ」

傘を畳み、服についていた雪を払い落としながら愚痴る様に圓潮は呟いた。
外套を外し、玄関を潜った圓潮は、目の前にいた人物に軽く目を見開いた。

「おや、鏡斎。珍しいね? お前さんが青蛙亭にいるのも」
「今日あんたが帰ってくる日だったからな」
「嗚呼、土産が目当てかい?」

それ以外に鏡斎が青蛙亭まで来る理由が思いつかない当たり、実に悲しい。
本人の行動パターンを知りすぎているのも考え物かと思った。

「またあの地方に行ったんだろ?」
「あの菓子は買えなかったよ」
「潰れてたのかよ」
「あたしも残念だったけどね。最近はどこもかしこも廃れるのが早いもんだ」
「そうか……帰る」
「雪が降ってる中、その薄着でかい?」

いくら感覚が鈍いと言っても限度がある。
いつも通りの服装で外に出ようとする鏡斎の腕を掴み、引き留めた。

「菓子ひとつで帰ることも無いだろう?」
「圓潮、オレは土産にしか興味がない」
「その根性だけは認めるけどネェ。折角だから茶ぐらい飲んでいきなさい」

土産噺もある、と言えば出て行こうとしていた鏡斎は止まり。
青蛙亭で一番暖かい部屋へと行先を変更した。


end
旧:拍手文
(2013/1/2~1/22)
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