圓鏡

中に描かれた金魚がゆっくりと泳ぎ回る扇を手に有行は水蛭子の反応を楽しんだ。

「面白いよねー、これ中の絵が動くんだよ」
「有行、どこからソレ持ってきたんだよ?」
「秘密」

おちゃめに言う有行は気になるのかと言いたげにニコニコと笑い。
一瞬額に青筋を立てそうになった水蛭子は、この程度で怒ってたら余計にからかわれるだけだと抑え。
それでも普通ではありえない扇が気になり有行に尋ねた。

「まさか誰かのを無断で持ってきた……とかじゃないだろうな?」
「大丈夫。無断だけど雄呂血様や心結のじゃないから」
「無断はあってるのかよ!! 他の奴でも駄目だろ!?」
「水蛭子は生真面目だねー」
「てめぇがボケボケしてるだけだ!」

さっさと持ち主に返してこいと相手の胸倉を掴み揺さぶりながら水蛭子は言い放ち。
水蛭子の鉄拳制裁に暴力反対と有行は泣き言を紡ぎ火に油を注いだ。

そんな才にあふれた二名のじゃれ合いの中。
廊下を歩いてくる圓潮に気付いた水蛭子は有行を揺さぶっていた手を一瞬止め。
睨むように圓潮へと視線を向け、舌打ちをしてから突き放すように水蛭子は有行を解放し。
有行の知人であり人間社会に溶け込む変わり者の妖怪になど誰が好き好んで関わるかと言いたげに踵を返した。

「何かあったんですか?」
「んー? 何もなかったよ。そう言う圓潮はどうしたの?」
「扇が一つ足りないもので、何か知りませんか? 有行殿」

すでに誰が持って行ったのかを知っている様子で尋ねる圓潮に対し。
広げ持っていた扇を有行はゆっくりと閉じて圓潮に返した。

「ごめんね、圓潮。少し借りてた」

あんまりにも綺麗で無害で面白かったからと悪びれもせずに有行は言い。
扇が手元に戻った圓潮は軽く広げて絵柄を眺め。
どこかほっとしたように懐かし気に扇へと視線を向ける圓潮へと有行は首を傾げた。

「思い出の品?」
「悪戯か暇潰しみたいなものだったんでしょうネェ。予備の扇にいつの間にか描かれていたもので」


その昔、危うく寄席に持っていきそうになった曰くつきの品ですと圓潮は苦笑した。


秘蔵品
とある夏の日の思い出。


end
(2026/08/29)
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