圓鏡
「たまに偶然にしても出来すぎたように、お前さんの絵に狂わされる弟子が出るネェ」
また一人、新しい弟子をとった圓潮は世間話をするように軽く鏡斎へと話しかけた。
「聞けば親御さんが遺産として手に入れた後、人が変わったように執着した品が実家にあったようでネ」
そんな品とよく似た絵を青蛙亭で見たらしい。
描かれた年代は当然のごとく違う絵だ、何故なら先祖代々受け継いできた品とは違いその絵は描かれたばかり。
同一人物であるはずがない、根拠がない、それでも祖父が執着し独占していた絵を一目見た時と同じように。
酷く魅入られた。
「……それで? オレに何か説教でもしに来たのかい、圓潮」
「ん? 何の説教するんだい?」
「あんたの弟子一人をオレのせいで新しくしなきゃならんかったって話だろ」
「そう聞こえたかい? あたしはただ最近の事を話していただけだよ」
飄々と言葉を紡ぐ圓潮に対し無言を返しながら鏡斎は目を細めた。
わざわざ話題に出した時点でそれはないだろと言わんばかりに。
人の世にまぎれるにしても人間と関わり過ぎている噺家。
たまにこの噺家の中での優先順位は何かと問いたくなる時がある。
「弟子なんてのは入れ替わるのが普通だろう?」
「そうだけどな」
「それが少し早まった程度であたしは怒りはしないよ」
「……どうだかな」
優先順位の不明
怒りの矛先が分かりにくい。
end
(2024/04/18)