断片話

◆誤解
(リク鏡)

「オレが君の子を産もうか?」

唐突に喋った鏡斎の言葉に、その場が凍りついた。

「……鏡、斎?」
「これで跡継ぎ問題も解決だ」
「えっと、君が…産むの? ボクの……」

続く言葉をリクオは飲み込んだ。
恐ろしすぎて言えるはずもなかった。
非常識が常の鏡斎の言動の中で、トップクラスに理解したくはない言動だった。
だが、凍りついた空気を前に、何かを言わなくてはいけないと頭が警鐘を鳴らした。
そう何か。何か鏡斎を思いとどまらせる何かを。

「鏡斎……気持ちだけは貰っておくけど、君に負担はかけられないよ」
「……何言ってる?」
「産む時の痛みって女の人には耐えられても男の人には気絶するぐらいの――」
「今まで産んできたが、そんな事はなかった」
「…………」

元百物語組幹部の〈腕〉である鏡斎の特徴をすっかりと忘れていた。
たしかに、鏡斎なら産めるだろう。絵から妖怪を……
そう理解した途端、一気に脱力しリクオは膝から崩れ落ちた。

「言葉が……言葉が圧倒的に足りないよ、鏡斎」


(2016/10/06)
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