圓鏡

「まぁ、困ったと言えば困った状況だネェ」


扇を広げ口元へと持っていった圓潮は、目の前の惨状を眺めて何の気なしに呟いた。
隣で筆を持ったまま地面に片膝をついていた鏡斎は圓潮を見上げながら訊き返した。


「……その一言ですむ問題かよ」
「そうは言っても雷電や珠三郎じゃあるまいし、個人の力付くで叩き潰す芸当はできないだろう?」
「そうだけどなぁ」
「どこぞの組妖怪に絡まれたら、あたし達はせいぜい力合せて他力本願しかない」



語って相手の畏れをある程度奪い、その間に語った噺の妖怪を産む。



咄嗟に思いついたにしては良い路線ではあった。
ただ、その後まで深く考えていなかっただけであって。


即興にしては上出来の作品を前に、圓潮と鏡斎は暫く黙り込んだ。



大ぽか
「どうするんだよ、こいつ」
「どうしようかネェ?」


end
(2012/06/19)
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