断片話

◆生存主犯格二人
(圓鏡)

「柳田が色々と頑張っているようだネェ」

俗世から離れた山間の集落に暮らす圓潮は、もう一人同じようにすみつく人物へと話を振った。
前と変わらずに絵を描いていた鏡斎は、振られた話にさほど興味のないままに聞き流していた。

「××村に切裂とおりゃんせ、少し前に流行ったのもあればつい最近までの噺もある。無節操なもんだ」

無粋ともいえる、と書見台へと和本を広げ眺めていた圓潮は皮肉った。

「自分の作品に手を加えられて、お前さんはどう思う?鏡斎」
「柳田サンに何ができる」

手など加えられるものかとぞんざいな返答。
いまいち調子の乗らない筆を置いた鏡斎は、圓潮の会話へと付き合う姿勢に入った。

「手当たり次第に噺を流行らせられて、使い捨ての駒のように扱われて、お前さんはどう感じる?」
「……オレの手から離れた作品だ」
「だから関係ない、そう言いたいのかい?」
「そうは言ってないだろ」

まとまらない考えに頭を掻き。
目の前の相手が何を言わせたいのかを探るように鏡斎は目を向けた。

「だいたい……あんたが一番オレの作品を駒として見てただろ」
「否定はしないが真実でもないネェ。あたしが、語る噺をただの使い捨てだなんて思う訳がないだろう?」

ぞんざいに扱った事など一度たりともないと言い切る圓潮。
確かに、思い返せば作品自体は丁寧に扱われてはいた。

「あんたが気に食わないのは、柳田サンが噺に泥を塗ったからか」
「ああ、そうだネェ。少しばかり手が気に食わない」

軽く冗談のような口調で言葉は紡がれるが。
その実、圓潮が冷ややかにも怒りを滲ませていることを鏡斎は肌で感じ取った。

「別に柳田の邪魔はしないさ。ただ少し。少しばかり――」

面白くはないだけだと目を細め。
手元で弄んでいた扇を鳴らした圓潮は、表情を変え鏡斎へと笑みを向けた。

「どうだい鏡斎。少しばかり表舞台に出てみないかい?」
「……来るものがあるなら付き合ってやってもいい」
「退屈はさせないつもりだよ」

少なくとも、今の世に出回るモノなどかすむほどのモノを用意する積りだと圓潮は語った。


(2015/04/30)
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