断片話

◆書置き
(柳+圓)

「圓潮師匠! 鏡斎が家出をしました!!」

大声で叫びながら近づく柳田に対し、圓潮は両耳を塞いだ。

「柳田。少し過保護すぎるとは思わないかい?」

あれでも人の年月で数えれば数百歳の妖怪。
それも外見年齢だけ見ても軽く20代はいく。

「何も知らない赤子じゃあるまいし、家を少し空ける程度で騒ぐものじゃないよ」
「ですが、圓潮!」
「書置きはあったのかい?」
「ありました」
「そうかい。それなら心配する事もないだろう。その内に帰ってくるよ」
「『来るものがないから何か来そうなモノを探してくる』と書いてあってもですか!?」
「それは、重症だネェ」

まさかあの鏡斎が、まともな理由を書いた書置きを残すとは。
今まで出先の絵を置いていっただけで済ませていたのが嘘のような長文。
しかも誰にでも読める文字で書いてある所が、さらに重症さに拍車をかけていた。

「こんな事なら鏡斎好みの女学生ぐらい手土産に捕まえてきた哉!」
「柳田。そこに泣き崩れるのは止めなさい。あたしの弟子が後で掃除する時大変だろう?」

外道過ぎる嘆きを無視して圓潮は柳田にハンカチを渡した。
血涙を渡された布で拭う柳田に、ハンカチの再利用を圓潮は早々に諦めた。


(2015/04/26)
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