断片話

◆四十九日
(圓鏡)

「あんたも案外バカだったんだな」
「鏡斎。人に向かってバカなんて言葉は使うもんじゃないよ」
「じゃあ抜けてる」
「…………」

顔半分を包帯で覆った圓潮は、鏡斎の言葉に諦めたようにため息を吐いた。
地獄で会って早々、随分と手厳しい。

「柳田サンに刺されて幕を閉じるじゃ、噺にもならん」
「それは自覚してるよ。まったく、あたしも〈山ン本さん〉なのには変わりないと思って油断してたよ」
「……まさか飼い犬に手を噛まれるなんて、か?」
「柳田一人じゃあ、この先の復活は無理そうだネェ」
「柳田サンだからな」

噺を集める〈耳〉だけでいったいどうする積りなのか。
それとも、そんな事も分からないほどすでに狂っていたのか。
どの道、〈腕〉も〈口〉もいない中百物語を完成させようなど夢物語でしかない。

「ところで、鏡斎」
「何だ」
「お前さんにベッタリとくっ付いてるのは、切裂とおりゃんせの怪人と地下鉄の少女かい?」
「そうだな」
「随分とまた、仲がいいネェ」
「こいつら同士はどういう訳か、仲が悪いけどな」


(2015/04/24)
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