断片話
◆生存者
(リク鏡)
「君は、オレの知り合いか?」
問われた言葉は、予想すらしていなかったものだった。
死んでいなかった。
どうやってあの状況から生き延びたのか。
何故、まるで何も知らないような目を向けてくるのか。
言葉が出ないまま、凝視するしかなかった。
「『鏡斎』は、オレの名前か?」
先ほど呼んでしまった名前を、独り言のように口にした相手は、納得したような様子だった。
「なるほど、掛軸にあった字はオレの名前だったのか」
ならば部屋にある絵全てが自分の作品かと、愛おしげに壁中に掛けられていた絵へと視線を向ける相手。
言いようのない疑問と違和感の正体が、ようやく分かった。
「鏡斎……君は――」
記憶がないのかと呟くように問えば、作品へと向けられていた視線が此方を向き、目を細められた。
「ああ、そうだな……オレは君の事も、自分の事も、覚えてない」
(2015/04/05)
(リク鏡)
「君は、オレの知り合いか?」
問われた言葉は、予想すらしていなかったものだった。
死んでいなかった。
どうやってあの状況から生き延びたのか。
何故、まるで何も知らないような目を向けてくるのか。
言葉が出ないまま、凝視するしかなかった。
「『鏡斎』は、オレの名前か?」
先ほど呼んでしまった名前を、独り言のように口にした相手は、納得したような様子だった。
「なるほど、掛軸にあった字はオレの名前だったのか」
ならば部屋にある絵全てが自分の作品かと、愛おしげに壁中に掛けられていた絵へと視線を向ける相手。
言いようのない疑問と違和感の正体が、ようやく分かった。
「鏡斎……君は――」
記憶がないのかと呟くように問えば、作品へと向けられていた視線が此方を向き、目を細められた。
「ああ、そうだな……オレは君の事も、自分の事も、覚えてない」
(2015/04/05)