断片話

◆再戦後
(柳田+猩影)

「期待外れ哉」

詰まらなそうに罵った相手は、砕けた大鋏の欠片をブーツで蹴飛ばした。

「誰だ!」

息すらもままならないこの状況下で、まだ敵がいたのかと舌打ちをしたくなった。
百物語組の残党かと睨みつければ、相手は此方を全くと言っていいほどに見ていなかった。

「少し前に流行った噺ならと期待したけど、やっぱり、圓潮が語らないと広がりもいまいち、と……」

和本を広げ何かを筆で書き記しながら呟いていた相手は、書き終った後、ようやく顔をあげた。
目を細め、筆をしまい和本を閉じた相手は、笑みを浮かべながら此方を向いてきた。

「君が、切裂とおりゃんせの怪人を倒したの哉?」
「だったら、何だ」
「そうだね……よくも倒してくれたねと恨み言を言おうかと思ったけど。君ごときに倒される程度の噺じゃ先が期待できなかったし、またすぐ復活できると思うとね」
「復活……だと?」
「そう、噺はボクの手によって復活するのさ! 人の心に噺がある限り!! 素敵な事だと思わない哉?」

芝居がかった動作で同意を求めるように訊く、百物語組の残党。

「ボクはもっと強い噺を集めないといけない、山ン本様が待っているから。これ以上君に割く時間はない哉」
「逃がすと思ってるのか!」

舐めた態度をとる相手に大刀を構え振り上げるが、横からの攻撃に邪魔をされ、その刃は届く事が無かった。

「危ない危ない……どうしてこうも奴良組の連中は野蛮なんだろうね?」

原型を留めないほどの黒い塊。
砕かれた大鋏を持つ物体は、行く手を阻むように残党との間に立ちはだかった。

「言っただろう? ボクはこれ以上君に割く時間はないって。続きは蛇足とでも遊んでほしい哉」

笑いながら背を向ける相手は、堂々とその場を去って行った。


(2015/04/05)
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