断片話

◆真贋鑑定


「見事な絵だね」

立派な掛軸を前に、柳田は呟いた。

「気に入りましたか?」
「ああ、とてもいい絵哉」

手を揉みながらすり寄る店主へと適当に言葉を返しながら、柳田は絵を眺め続けた。
ここの店以外にも、全く同じ物があった。
贋作。
そんな言葉が浮かぶが、はたして人の手で、これほどまでに同じ絵を描けるものなのか。
版画ならばまだ分かる、同じ絵を増やしたければいくらでも刷ればいい。
しかし、目の前の絵は肉筆画。
これだけ複雑な絵は、人の手ではまず無理なはずだ。

「ある事には変わりなく、同じ物をこの目で見たのだから、疑いようは無いのかもしれないけどね」
「は? お客様、今なんと……」
「何でもない哉。そうだね、風景画や美人画もいいけど、ボクが欲しいのはもっとドロドロとした絵、哉」

疑問符を浮かべる店主へと笑みを向け、耳元の鈴を微かに鳴らしながら柳田は店を後にした。

「これで十件目、それもそれぞれ離れた場所にあるのは、本物だと思わせるためだろうね」

和本に書き記しながら柳田はため息を吐いた。

「君の仕業にしては随分と詰まらない物を描き続けるね、鏡斎」

そう、人の手であれだけ同じに描ける訳がない。
ただ一人、描くことができる人物を知っている柳田は、和本を閉じた。

「圓潮師匠に報告をして、真偽を突き止めないとね」

一番の決定打が出回れば、すぐに分かる事だが、それでは困る。

「君は何処にいるんだろうね……鏡斎」

もう随分と行方の分からない相手の名を呟き、悲しげな鈴の音を響かせ柳田は歩き始めた。


(2013/12/25)
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