圓鏡

「鏡斎。もしもの話だが、組がなくなった後、あたしと一緒に暮らしてみないかい?」
「……絵が描けるなら考えてもいいぜ」
「お前さんらしいネェ」


冗談で言っている訳ではないと分かっていながら、それでも自分には関係のない事だと鏡斎は思った。

絵が描けるなら、それでいい。
本当に、それ以外の要求はないのだから仕方ない。
目の前の圓潮にしても行き着くところは、ただ噺家として語りたいだけ。
どちらも欲に忠実で、誰よりも分かりやすい。

何故、そんな事も分からないのかと、鏡斎は勘違いをしている人物達を思い浮かべた。


「あたしは噺家として語り。お前さんは絵を描き。そんな風に好きに暮らせればいいネェ」


今と何も変わらない生活。
唯一違うのは、組が関係しない事。
その違いが、圓潮にとっては一番大きいのだろうと考えてから、鏡斎は微笑した。


「それもいいな」



似て非なり
他に気付く奴はいない。


end
(2012/01/26)
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