断片話

◆来客
(圓鏡+有)

「やあ、圓潮。この前の寄席いらい?」

廊下の向こうから歩いてくる人物に、一瞬目を疑いたくなった。

「……有行殿、何故ここに?」
「作品を貰いに来たんだ」

後ろにハートマークが付きそうなほど軽やかな口調。
長細い箱を持った相手は、手を振りながら笑った。

「じゃあね圓潮。また今度、寄席に行くから」

質問はその時にでもしてね、と含むように言う有行。
さっと横を通り過ぎた相手を暫く眺め、本来会うべきはずだった人物の部屋へと急いだ。

「鏡斎。さっき来ていた人物とは、どんな関係なんだい」
「……最近来るようになったガキ」
「絵をあげてたようだが、よく渡す気になったネェ?」
「あんたの紹介じゃなかったのか?」
「あたしの紹介?」
「違うのか? オレの絵の事をあんたから聞いて来たって言ってたぜ」

あの人は、と思わず頭を抱えそうになったが、寸前で眉間にシワを寄せるだけで止めた。
暇つぶしに人をからかう事に関しては、天才的すぎる。
今頃、おそらく室内の何処かに仕込んだ鏡を通してコレを眺めているのだろう。
笑い転げている姿が目に浮かぶ。

「あんたの名前が入った扇まで持ってたから信じたが、違ったか?」
「いや。……確かに話したが、まさか直接お前さんの所へ行くとは思わなくてネ」


(2013/09/27)
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