断片話

◆珍
(圓鏡)

「最近はおかしな人間がいるんだな」
「ここの近所を人が通るのかい?」

ほぼ外出をしない鏡斎からの言葉に、思わず圓潮は訊き返した。
昼間でもほぼ誰も通りかからない寂びれた軒先。
そんな一種異様な場所を好き好んで通りかかる人間がいるのかとまず驚いた。

「黒皮のつなぎ服着た三人組がよく通ってる」
「そんな服を日常的に外で着るのも、確かにおかしな話だネェ?」

洋服が主流の現代において、和服で外出する自分達を棚に上げながら圓潮は首を傾げた。
同じように、日常的に和服姿でいる事に何の疑問も持っていない鏡斎も相槌を打った。

「……アレはあんたのパパラッチか?」
「ゴシップ記事目当てにしても普通はそんな恰好で出歩かないだろう。それと、あたしはそこまで有名人じゃないよ」

噺家として活動はしているが、人間相手に語る上であまり目立ちすぎても疑問を抱かれるだけ。
ゴシップ記事を書きたてられるほど有名でない事もまた事実。

「鏡斎、その三人組を絵に起こせるかい」
「……来るもんがなかったからなぁ」

忠実に描けるかと言われれば、そこまで断言は出来ないと鏡斎は返し、筆をとった。
少し考えてからザックリとした外見を紙に綴った。

「大体こんな感じだった、はずだ」

描き終わった紙を持ち上げた鏡斎。
三人組の外見が描かれた絵を眺めた圓潮は唸る様に鏡斎に訊いた。

「妖怪じゃないのかい?」
「いや……人間だった」

中央の女性と思わしき人物はまだよかった。
その両脇にいる人物達が、どう見ても妖怪と言った方が早い気がした。


(2013/04/16)
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