断片話

◆対立
(圓鏡)注:生存仮定+奴良組在住

裏切って、見捨てて、なのに何で目の前にいる。

「元気そうだネェ、鏡斎」
「……圓潮」
「変わらずに過ごしているようで安心したよ」

飄々と、さも当たり前のように言う圓潮。
部屋に散らばっていた紙を一枚すくい上げ、興味深げに眺めた。

「奴良リクオの絵かい」
「ああ、そうだ」

何十枚、何百枚、本人を前にしておきながら一つとして満足のいく出来にならない作品。
同じモデルにしか興味を持てなくなった事を、相手は望まない。

「圓潮、あんた何で来たんだよ」
「奴良組の敵のくせに、かい?あたしは中立だよ。語る事さえできれば立場に執着はしないからネェ」
「何しに来た?」
「お前さんの顔を見に」
「……オレが信じると思うのか」

信じるわけがない。
息を吐く様に嘘を紡ぐ相手を、今はもう信じられない。
その事を端から分かっていたのか、相手は取り繕う事すらしなかった。

「鏡斎」
「何だよ、圓潮」
「残念だよ、お前さんを連れて行けなくて」
「……頼まれても、オレはあんたを二度と信用しない」
「そうかい」

少し離れた部屋から、奴良組の小妖怪達が騒ぐ声が聞こえてきた。
誰もいなくなった部屋で、筆を持ち直し、穂先を墨に浸そうとして、止めた。


(2013/02/22)
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