断片話

◆忘
(切+柳)

欠けた刃先は戻らない。
二度と細道を離れられない。
前に比べると少しずつ違う事に違和感しか浮かばなかった。



「鏡斎は――君の事は知らないよ」

何故、と聞き返す前に、目の前の相手は言葉を続けた。

「それが、君を戻した時の条件だったから哉」



幹部の一人が細道から出て行った後、無性に笑いたくなった。
今までの、どの作品の中でも特別な存在だった。
そんな言葉を聞いても欠けらたりとも嬉しくはない。
世の誰もが噺を忘れても、覚えておいてやると言った人物は。
ただ一人、自分の噺をずっと覚えていて欲しいと思った人物は――

「〈小生〉の噺を忘れたと言うのでありマシょうか」


(2012/08/31)
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