断片話

◆だるま
(圓鏡)

畳に転がっていたものを抱え上げ、圓潮は膝の上へと置いた。
腕の中に納まるほどの相手を見下ろし、不思議そうに訊いた。

「全部奪われたのかい?」
「圓潮、筆くれ。あと墨」
「その体でどうやって描くつもりだい」
「口に咥えさせてくれ」
「はいはい、注文が多いネェ」

言われた通りに筆を与えると、鏡斎は口だけで欠けた部分を描き始めた。
その様子を眺め、圓潮は器用なものだと思った。
片腕が戻ったところで筆を口から外した鏡斎は、黙々と残りを描いた。

「珍しいもんだ、いつもならさっさと治せるよう片腕だけは残してただろう?」
「……少し油断した」
「手足を奪った妖怪は何処に行ったんだい」
「知らねぇ。――圓潮、そろそろ放してくれ」
「ん? あぁ、描き終わったかい」

すでに支える必要がなくなった鏡斎を膝に乗せたまま、圓潮は暫く手を離さなかった。

「…………圓潮?」
「案外納まりが良くて持ち運びが便利だったかもしれないネェ」

冗談なのか本気なのか、率直な感想を言う圓潮に鏡斎は真面目に返した。

「オレは筆が持てない体は嫌だからな」
「分かってるよ、それぐらいはね」


(2012/07/07)
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