断片話

◆必要意義
(切鏡)

「何故、〈小生〉にいらぬ感情をつけて産んだのでありマシょうか」

手酷く扱った後、時折矛盾したように優しくなる相手は言った。
その言葉に、鏡斎は少し黙ってから口を開いた。

「……何の事だ」

何がいらないのか。
それとも、本から好意を持つよう作った事に対する怒りか。
畏れを集め続ける手駒に留めておけばいいものをと言う憐れみか。
どれとでもとれる相手の言葉に鏡斎は問い返した。

その問い返しをはぐらかしだと感じた男は、唐突に鏡斎の首元へと手をかけ力を籠めた。
抵抗をしない鏡斎の上で男は顔を歪ませて睨みつけた。

「貴殿が、そう作り産んだのでありマシょう。〈小生〉が殺したくとも出来ぬよう、逆らわぬよう枷を付けた」

違うとでも言うつもりかと、気道を塞ぐように力をかけながら男は言葉を紡いだ。

「何故、このように産んだのでありマシょうか」

好いていると思う感情も、嗜虐的な想いを抱くのも、全てはそうなるよう相手が作り出した。
どれだけ否定しても、作り出された時点で相手の望むように生み出された事実は変わらない。

首を絞める手を緩め、歪んだ笑みを浮かべて男は鏡斎を見下ろした。

「何故、不要なモノを与えたのでありマシょうか」


(2012/05/24)
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