断片話

◆無意識


本当に山ン本様が今も生き続けている証だと思った。
絵ばかり描き続ける〈腕〉の姿を眺め、柳田は感嘆の声を漏らした。
描き終わった絵が本物になる瞬間がなにより救われる。

「あんた……オレを誰と重ねてる?」
「君は山ン本様の〈腕〉だろう?」

その他にどんな見方があるのかと言えば、相手は心底嫌そうな顔をした。



鏡斎の苦情を聴いていた圓潮は軽く嘆息してから答えた。

「嫌う理由も分からないでもないネェ。何かにつけて他人と重ねられるのも嫌なもんだ」
「あんたも、そう見られてるのかよ」
「あたしの場合はそこまで酷くはないよ」

それでも多少は重ねて見られる。
〈山ン本〉が生きている事を始終確認したがる柳田は、似ている部分を探し出すことによって安定を得ている。

「柳田の気がすむまで、と言いたいが……お前さんはその間中不愉快だろうネェ」
「分かってるならオレの近くに寄せないでくれ」
「それは無理な話しだ。絵に集中しすぎて敵に後ろから刺される事もありうるお前さんを一人にはさせておけない」
「……だったら、オレは地下で描く」
「殺風景で何もない地下に、また戻るのかい?」

黙り込んだ鏡斎は圓潮を睨んだ。
ようやく地上に出たものを誰の思慮のせいで戻る選択肢が出たのかと言いたげだった。


(2012/05/15)
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