圓鏡

真夜中にかかってくる電話ほど不吉なものはない。


もっとも、妖怪に人の常識が通用する訳もないかと、布団の中で圓潮は考えた。

その内に諦めるかと暫く出渋ってはみるが、しつこく鳴り続ける音は止みそうになかった。
鳴り響くベルの音が20回目になった所で、ゆっくりと布団から出た。


『圓潮! いつまでワシを待たせる気じゃ!?』
「〈山ン本さん〉、こんな夜分遅くの電話は非常識ですよ」

怒鳴りつける相手に侘びも入れずに返すと、さらに大音量で叫んできた。


『そんな事はどうでもいい、今すぐワシの所に来てくれんかのう!?』


安眠を邪魔された事もあり舌打ちをしたくなった。
わざわざ青蛙亭ではなくこの家に電話をかけてくるあたり、つくづく余計な感知機能が付いているものだと心内で毒突いた。

相手が切羽詰まった声を喚き立てる理由は分かっている。
それだけに、そんなもので起こすなと言う気持ちの方が強かった。



『柳田と2人っきりで気まずいんじゃ!!』
「久しぶりの水入らずですネ」
『圓潮! ワシの話を「柳田からの積もる話もありましょうし、今宵は此処までにいたしましょう」
『ワシの話を聞…!』

プツッと受話器を置く前に電話を切り、そっと受話器を戻した。

「まったく、くだらないネェ」

本当に、何故余計な機能を持っているのかと圓潮はため息を吐いた。


「……誰からだったんだ」
「おや、起きたのかい。鏡斎?」
「あんたがいなくて寒かったからな」

眠たそうな瞼を上げながら答える鏡斎は、再度質問した。

「で、誰からだったんだ?」
「気にしなくてもいい事だよ」
「……そうかよ」

切り捨てるように言う圓潮に対し、鏡斎はそれ以上聞く事を止めた。



夜間の電話
「まったく、非常識な電話だったネェ」


end
(2011/12/08)


おまけ


「柳田ァ……ワシは明日から奴良組の潜入に戻るんじゃが……」

そろそろ寝かせてくれと含むように言うが、上機嫌な柳田は聞く耳を持っていなかった。


「夜なんて明けなければいいですね。そうすれば、貴方と二人ずっと話せるのに」

うっとりとした様子で言う柳田に、思わず〈脳〉は涙が出そうになった。



『コレさえなければ優秀なのにのう……』

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