断片話

◆兄弟喧嘩
(圓+鏡)

「こんなに散らかして、随分と荒れてるネェ?」
「……圓潮か」

散乱する紙や墨をぶちまけられた畳を眺めても、何事もないかのように圓潮は鏡斎へと近づいた。

「そこまで荒れるは珍しいもんだ」
「オレの作品が奴良組に消されたのは本当か」
「あぁ、消されたよ。いい噺だったのに残念だ」

だから、次の作品をと柳田が取りに来ただろうに、と圓潮は言外へ含めた。



「鏡斎。あたし達はまだ生まれて日が浅い。妖怪なんてものは長い年月生きるもんだ、いちいち覚えていたら身が持たないよ」

淡々と紡がれる言葉に、鏡斎は握っていた筆に力を込めた。

「それがあんたの了見か」
「真実さ、お前さんもその内に気付く」
「そうかよ……」

視線を下げた鏡斎は持っていた筆に墨を浸し、一面に絵を施した。

「あんたも柳田サンと一緒だな」

睨みつけ断言する鏡斎に、圓潮は飄々とした態度で訊いた。

「あたしも追い出すつもりかい?」
「そんな手ぬるい事あんたにする訳ないだろ、圓潮」
「〈語る〉口さえいなければ作品は利用されないなんて浅はかな考えだよ、鏡斎」
「何とでも言えよ」

一斉に実体化する妖怪を前に、圓潮は憐れむように鏡斎を眺めた。

「馬鹿な子だネェ。あたしにかなうと思ってるのかい」
「〈語る〉だけしかできない噺家ぐらいやれるさ」



「圓潮と鏡斎の大喧嘩なんて後にも先にもあん時だけだったよな」
「本当、今の鏡斎からじゃ考えられないけどねぇ」
「派手だったよなー民家1つ潰してよぉ」
「結局、引き分けだったかしら?」
「オレは鏡斎が負けたって聞いたぜ?」
「そう? 昔の事だから曖昧なんだけど」
「アレっからだったよな、鏡斎が忘れっぽくなったのってよ」
「特に気に入った作品以外は覚えてないのよね。でも、それって多く描き過ぎたからじゃないの?」


(2012/02/14)
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