断片話

◆続・あり得ない
(圓鏡)

嘘ばかりで、どのことに対して言っているのか見当がつかなかった。
それだけ、嘘で塗り固めていたのかと自分の行いに呆れ、圓潮は鏡斎からの言葉を待った。

「今度は、好きに語れるようになったのかよ」
「…………」

体半分がない事も、組の事も〈山ン本〉の事も、全て飛ばして言われた言葉に、珍しくすぐに返答が出来なかった。
いつぞや、語り終わった後、白けた様子でいたころに一度だけ質問をされたことがあった。
好きで語っているんじゃないのかと。
周りを完璧に信用させている中、どうしてか鏡斎だけが疑問の目で見てきた。
それだけ元の〈山ン本〉と言う人物の中で、口と同じだけ腕という存在が重要だったからなのか。
欲全てが絵に向かい他に関しては無関心で、それゆえ平等に見ていたからなのかは知らない。
ただ、その言葉を聞いた時から自分の中で、いつかは組に関係なく語り、その隣には――

「そうだネェ……今度は好きに語れそうだよ」
「……そうか」

興味を無くしたように呟いた鏡斎は、何をするでもなく天井を眺めた。
暫くしてから、思い出したように口を開いた。

「紙と墨と筆手に入るのかよ此処?」
「まあ、手に入るとは思うよ」
「それから、あんたのその顔、どうしたんだ?」
「今頃かい?」

順番が果てしなく狂っているような気がしながら、まあ鏡斎だからしかたがない、と圓潮は納得した。


(2012/05/30)
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