断片話

◆あり得ない
(圓鏡)

「嗚呼、全くどうして上手くいかないんだろうネェ」

ようやく組に関係なく語れると思ったものを、何故こうまで都合よくいかないものか。
代償として払わされた顔半分を片手で覆いながら圓潮は落胆した。

「圓潮、嘆いてるところ悪いけど、そろそろ彼が起きるよ?」
「そう、ですか」
「君のそれすぐに直せるけど、どうする?」
「後にしましょう」
「それにしても、圓潮。どうしてそこまで彼にこだわるのかな」
「……惚れた弱みでしょうネ。残るは、ただの自己満足ですよ」
「そう」

目を細め少年は先へと進んだ。
扉を開けると、部屋の中心には七芒星の陣。
軽く少年が指を振るうと、光を放つ陣は掻き消えた。

「妖は丈夫だね。刀傷を受けてビルから落ちたのに、それでも息があるなんて」
「傷が浅かったのも、不幸中の幸いだったのでしょう」

運が良かったと呼ぶべきか、それとも初めから閉じ込めておけばこんな事にならなかったと考えるべきか。
何にしろ、室内で横たわっている人物が虫の息になっていた事には変わりない。

「起きたかい、鏡斎」
「……圓潮」
「鬼ごっこは終わったよ。百物語組はなくなった」
「負けたのかよ」
「いや、解散したのさ」
「そうか」

さして驚きもせず納得する相手は、どこか上の空だった。
そんなやり取りを眺めていた少年は、圓潮へと質問した。

「少し外そうか?」
「どちらでも構いませんよ」
「じゃあ、外すよ」

暫くしたら今後の事を話すから、と言い残し少年は部屋を出て行った。

「陰陽師かよ」
「持ちつ持たれつ、そんな関係だから心配はないよ」
「圓潮、あんたさぁ……オレに何か言うことあるだろ」
「組を勝手に解散させた事への謝罪かい? それとも、奴良リクオに関する事の言葉足らずかい?」
「組はどうでもいい。リクオの畏れも、知ったからもういい」
「じゃあ、どれの事かあたしにはわからないネェ」


(2011/12/20)
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