柳鏡

「柳田サン。あんたさぁ、何か勘違いしてないかい?」
「気に入らなかったの哉?」
「別にオレは極度の女好きって訳じゃない。こうも女を寄越されても困るだけだ」

座敷にて酒を飲んでいた鏡斎は、いい加減に鬱陶しいとばかりに柳田へと抗議をした。
ただ好みの女がいなかったので不機嫌になっていたと思っていた柳田は、不思議そうに首を傾げた。


「君が?」


まさか、と冗談ごとに受け取った柳田の顔に、鏡斎は冷眼視した。


「……あんたの頭の中のオレはいったいどうなってるんだ?」
「女性を題材にしてることが多かったから、てっきり女好きかなと」
「それとこれは別だろ。こうも女の臭いが多いと頭が痛くなる」
「匂いが?」



それほどだろうかと部屋の匂いに意識を向けてみるが、さほど気になるほどに強くは無い。


「臭うだろ、白粉と体臭と血の混ざった女独特の」
「君は鼻がよかったんだね」
「分かったら下がらせろ、それか帰らせてくれ」
「せっかく此処まで来て何もしないなんて勿体ないと」
「思わん。気分じゃない」
「はっきりと言うね」
「これならまだ、あんたと家で飲んでた方がいい」
「…………」


杯に残っていた酒を一気に飲み干した鏡斎は、何も言い返してこない柳田へと疑問の目を向けた。


「……どうかしたかい? 柳田サン」
「君は時々、ボクにとって都合のいい事を言うね」



それが気が乗らないが故の面倒さからだとしても、言われて嬉しくないとは限らない。
自分が何か言ったかと思い当たる節のない顔をする鏡斎へと、柳田は笑みを向けた。



「早く帰ろうか、鏡斎」



酒よりも女よりも
あんたの方がいいと、言われたら。


end
(2018/06/03)
10/11ページ