断片話

◆イカナイデ
(地下鉄→鏡斎)

行かないで、行かないで、イカナイデ……私を置いていかないで。
私を見てくれる唯一の人だったのに。
頭を優しく撫でて、私を産んでくれた人は去っていきました。
一人きりの駅はとてもさみしくて、私が見える人がいるのがとてもうれしくて。
44秒以内に〈私〉を見つけられなかった人をロッカーの中に入れた。

「また、見つけられなかったね、いつになったら見つけてくれるかな?」

一つ、また一つ、だんだんと埋まっていくロッカーの扉。
いっぱいになったらどうなるんだろう?
なにも起こらない? それとも――


(2011/11/04)
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