断片話

◆子供は神の所有物


「――おい、話は終わったか?」

その場から釈迦が去った後。
今まで黙ってトールの腕に座っていた子供は、神に対しぞんざいな言葉を投げた。
姿は全盛期とはほど遠く幼いが、その中身はラグナロクでの記憶すら所持している。
所持しているからこそ、何故こうなったかを理解することを早々に放棄し。
ただ、戦えるか否かを考え続けていた。

「終わったなら我を放せ。お前と戦えるまで鍛え直してくる」

考えた結果、現状では満足に打ち合えない事だけは分かった。
己の手を見ればその小ささは遥か昔の、物心がついたばかりの頃のもの。
方天戟を握りまともに振るえるようになるには、最低でも十は年が必要か。
武の高みを再び目指すそこに悲観はなく、むしろ楽しさすら覚えるものだった。

「……何故我が元から離れる気でいる?」
「あ?」

武者修行の旅に今すぐにでも飛び出しかねない人の子を前に、トールは問いかけたが。
むしろ何故ダメなのかと言わんばかりの表情を相手に浮かべられた。


「鍛え直すのであれば、いくらでも私が貴様の相手をしてやる」
「ふむ」
「人器の武器では貴様は満足が出来ないはずだ」
「うむ」
「我が元にいるなら神器の武器を用意しよう」
「ほう」

壊れない武器が手に入るのは魅力的ではある。
神の提案に耳を傾けていた呂布は、神の元に留まるのも悪くはない気がしてきた。


「早く戻りたいのであれば、なおのこと我がそばにいるべきだ、呂布よ」

その方が、通常の成長を待つよりも早く戻る。
決定打ともいえる神の言葉に、呂布は目をぎらつかせ凶悪的な笑みを浮かべた。

「くはっ! その言葉が真であるなら、我はお前の元に留まろう」


どのような理屈かは理解できないが。
あの世の不可思議な現象に関しては神の方がよく知っているのだろう。

一刻でも早く元の体で戦える可能性があるならば、それに乗らない手はない。
仮に嘘であれば、その時はその時で、改めて神の元から離れるなりすればいい。

そう、酷く打算的な考えのもとで呂布は神に対し承諾の意を示し。
再会した時より数え、地に足が付くことが皆無なほどに抱き上げられている事を不問にふした。


(2021/09/17)
9/9ページ