小説
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「…………」
「やぁ、気分はどう?」
軽々しく言葉を紡ぐ声の方へと、呂布が開けたばかりの目をやれば。
そこにはヤギのような眼を持つ存在がいた。
何が面白いのか上機嫌に椅子に座る存在を無視した呂布は。
寝台に手をつき起き上がろうとし、腕から先が千切れたままである事を知った。
「ああ、ごめんね? 両手足も繋げておいた方がよかった?」
さも心配そうに、声色だけは隠しようもなく楽し気に。
いい性格をしている存在は笑みを浮かべて椅子から立ち上がり、呂布を見下ろした。
「僕が手を貸して起き上がらせてあげようか?」
「不要だ」
腕がないのであれば、それを考慮して起き上がればいい。
上体を起こし、失った腕から先を包むように垂れ下がる袖を一瞥すれば。
絹よりも上等の布で作られた服は、ご丁寧にも見慣れた造りのものだった。
「我は完全消滅とやらをしたはずだ」
「アレは、ほら。わざわざ戻さないといけないから、基本は消滅したまんまってだけだよ」
「何故戻した」
「嬉しくない? 普通は泣いて喜ばない? もう一度戦える! ってさぁ」
用をなさない袖を片方、目の前の存在は弄ぶように手に取った。
「まあ、そんな体だと眼中にすら映らなくなっちゃうだろうけど」
誰の眼中とは言うまでもなく。
思い浮かべるは、あの北欧最強と称される雷の狂戦士。
くだらない現状に怒りすらわかず。
ただ水を差されたように憮然とした表情を呂布は浮かべた。
「……余計な事を」
「戻れただけよかったと思おうよ、ね? こんな奇跡、滅多にないんだから」
立ち上がることも、武器を握ることも今は出来ない人間へと。
優しく諭すように言い含めていた存在は、呂布の服の袖を掴みながら。
いっそ、何処までも慈愛と悪意に満ちた笑みを浮かべ。
一つの提案を口にした。
「それとも、もう一度ニブルヘルさせてあげ――」
提案が最後まで聞かれることはなく。
グシャリと、一瞬にして頭部が肉塊へと変わった物体の血により寝台は汚れ。
弄ばれるように掴まれていた袖は、物体が床へと崩れ落ちると同時に解放された。
血生臭い部屋を作り出した相手へと、呂布が視線を向ければ。
武器にへばりついた肉片を不快そうに壁へと振り払う北欧最強の神がいた。
「いきなり頭を吹っ飛ばすとか酷いなぁ。せめて部屋に入る時はノックの一つでもしなよ」
今しがた頭と胴体が離れたはずの存在は、何事もなかったような姿で宙に浮き。
馴れ馴れしくもしれっとした態度で訪問者へと声をかけた。
気付けば汚れていたはずの部屋は血生臭さ一つない清浄な場へと戻り。
肉塊になったはずの物体は消えていた。
およそ下界の常識では考えられない現象など気にも留めず。
雷神トールは邪魔な存在を一瞥した。
「出ていけ……」
「はいはい。そんなに睨まなくても出て行ってあげるよ」
宙に浮きながら呆れたようにため息をついた存在は。
次の瞬間には極限まで口を吊り上げた笑みを浮かべた。
「お気に入りだった人間との、感動の再会だもんね?」
欠けた玩具
遊ぶには欠陥品を用意した狡知の神。
end
(2020/12/03)
「やぁ、気分はどう?」
軽々しく言葉を紡ぐ声の方へと、呂布が開けたばかりの目をやれば。
そこにはヤギのような眼を持つ存在がいた。
何が面白いのか上機嫌に椅子に座る存在を無視した呂布は。
寝台に手をつき起き上がろうとし、腕から先が千切れたままである事を知った。
「ああ、ごめんね? 両手足も繋げておいた方がよかった?」
さも心配そうに、声色だけは隠しようもなく楽し気に。
いい性格をしている存在は笑みを浮かべて椅子から立ち上がり、呂布を見下ろした。
「僕が手を貸して起き上がらせてあげようか?」
「不要だ」
腕がないのであれば、それを考慮して起き上がればいい。
上体を起こし、失った腕から先を包むように垂れ下がる袖を一瞥すれば。
絹よりも上等の布で作られた服は、ご丁寧にも見慣れた造りのものだった。
「我は完全消滅とやらをしたはずだ」
「アレは、ほら。わざわざ戻さないといけないから、基本は消滅したまんまってだけだよ」
「何故戻した」
「嬉しくない? 普通は泣いて喜ばない? もう一度戦える! ってさぁ」
用をなさない袖を片方、目の前の存在は弄ぶように手に取った。
「まあ、そんな体だと眼中にすら映らなくなっちゃうだろうけど」
誰の眼中とは言うまでもなく。
思い浮かべるは、あの北欧最強と称される雷の狂戦士。
くだらない現状に怒りすらわかず。
ただ水を差されたように憮然とした表情を呂布は浮かべた。
「……余計な事を」
「戻れただけよかったと思おうよ、ね? こんな奇跡、滅多にないんだから」
立ち上がることも、武器を握ることも今は出来ない人間へと。
優しく諭すように言い含めていた存在は、呂布の服の袖を掴みながら。
いっそ、何処までも慈愛と悪意に満ちた笑みを浮かべ。
一つの提案を口にした。
「それとも、もう一度ニブルヘルさせてあげ――」
提案が最後まで聞かれることはなく。
グシャリと、一瞬にして頭部が肉塊へと変わった物体の血により寝台は汚れ。
弄ばれるように掴まれていた袖は、物体が床へと崩れ落ちると同時に解放された。
血生臭い部屋を作り出した相手へと、呂布が視線を向ければ。
武器にへばりついた肉片を不快そうに壁へと振り払う北欧最強の神がいた。
「いきなり頭を吹っ飛ばすとか酷いなぁ。せめて部屋に入る時はノックの一つでもしなよ」
今しがた頭と胴体が離れたはずの存在は、何事もなかったような姿で宙に浮き。
馴れ馴れしくもしれっとした態度で訪問者へと声をかけた。
気付けば汚れていたはずの部屋は血生臭さ一つない清浄な場へと戻り。
肉塊になったはずの物体は消えていた。
およそ下界の常識では考えられない現象など気にも留めず。
雷神トールは邪魔な存在を一瞥した。
「出ていけ……」
「はいはい。そんなに睨まなくても出て行ってあげるよ」
宙に浮きながら呆れたようにため息をついた存在は。
次の瞬間には極限まで口を吊り上げた笑みを浮かべた。
「お気に入りだった人間との、感動の再会だもんね?」
欠けた玩具
遊ぶには欠陥品を用意した狡知の神。
end
(2020/12/03)