萌語り

◆誰が為にアザミは咲く


神話系には神に愛された挙句に植物化する人間が多いので。
雷神トールの花とされるアザミもまた、雷神が愛した誰かだったのかと思う呂布とか見たい。
トール神の方は、何故アザミの花を大切にしてるのか自分ですら分かってなくて。
けれど大切な花だと無条件で認識してるとかで。

話の発端としては、呂布が不思議な夢を見たことから始まる。
一面にアザミが咲き誇る丘にて雷神が佇む夢を。

初めはすぐに目が覚めていたので、ただの夢だと思っていたが。
何度も同じ夢、同じ光景を見続ける内に考えを改める。
ただの夢だとするには、あまりにも鮮明でおかしいと。

そも、あの花は何だと疑問に思う呂布。
たまたま遭遇した戦乙女に訊けば、アザミの花ではとの答えを得る。
雷神トールが大切に守護をしている花だと。

神が大切にしている植物の多くは、神が愛した人間の成れの果てである事が多い。
そんな話も知った呂布は、特に誰であるとの伝承もないが、雷神も同じかと考える。
けれど、トール神にアザミの花に関して問うてみても理由は分からずじまい。
隠している訳ではなく、当の雷神すら理解をしていない様子。

過去現在に理由がないとするなら。
逆説的に、未来に理由が存在する可能性すらあるのが神。
では、いつかお前に大切な者ができるのだろう、と線引きをする呂布。
あの夢は、未来に起こるかもしれない出来事でも見ていたのかと考える。

この先、雷神の好敵手でい続けられるかの一点だけが問題な呂布。
単純に好敵手であるだけなら支障は発生しないと判断して。
それ以外の余計な関係を切り捨てようとする。

別に嫉妬はしてないが。
ただ雷神に愛しい者が出来るなら、現状の関係を続ける事は不都合だと。
冷淡に先回りして考えた結果、トール神には理解されない結論を出してしまった。

その間にも、ずっと同じ夢を見続ける呂布。
何度も、何度も、ただアザミの花だけを見続ける雷神を目の当たりにし。
段々と夢を見る時間が長くなっていく事に気付かないままに。
誰を想っているのか、何故こちらを見ないのかと苛立ち始め。
雷神が愛した人間とは誰だったのか知ろうと声をかける。


そして、夢をかいして存在自体を連れていかれそうになる。


ただの夢だと認識していたものは、未来視の類ではなく、実は平行世界での出来事。
その世界では、ニブルヘルした者が戻ってくることはなく、ラグナロクも遠い過去の話。

ニブルヘルし宇宙の塵と化したものを集めた所で意味はない。
けれど、とある神は一欠片にすら満たないその塵を探し出し集めてしまった。
好敵手が存在していたことを証明するように、忘れないように、花の種へと変え。
今では丘を埋め尽くすほどに咲き誇る花を見下ろしていた神は、ずっと願い続けていた。
再び己の好敵手に、呂布奉先に会えたなら、その時は――と。

かくして、神の願いは世界にすら干渉して奇跡を起こす。
声をかけられたことにより相手を認識できた神は手を伸ばす。
己が好敵手との再会を喜びながら。

一方、現実世界の方では。
深い眠りへと落ちてしまった呂布を前に、トール神が原因究明を急いでいた。
存在自体が希薄になっていく様子に、夢をかいしての呪いの類かと検討をつけ。
夢に関する神器or魔術を使用し、呂布の夢の中へと踏み込めば。
そこで、平行世界の自分と交差をする。

アザミの花とは、呂布奉先を手に入れられなかった世界の自分が創った花だと知るが。
もっとも、だからといって呂布を渡す気は微塵もない現実世界のトール神。
平行世界の介入を断ち切るように呂布を奪い返す。

その後、事の顛末が広く噂になり。
周囲から、人間ごときの為に神が自ら危険を冒すなどと苦言されるが。
噂などどこ吹く風のトール神は煩いさえずりを一睨みで黙らせる。

アザミの花は雷神の手によって花にされた自分だったと知った呂布。
神というのは、人間の常識が通用しない存在だと改めて認識する。
まさか平行世界での出来事が関係するとは、普通は思わない。
ただ、それほどに求められていたことを少し不思議には感じた。
まだまだ雷神の愛を軽く見てる飛将。


(2020/11/06)
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