逢魔ヶ刻動物園

掃除用具を持ち、いつものように何もないところで転んだ華は、目の前を通った椎名を見て違和感を覚えた。

「園長、太りまし、ィッ!?」
「何か言ったか、蒼井華?」

ドスッ、と自分の間近にあった壁にニンジンが突き刺さり、破片が落ちる様を見ながら華は口を継ぐんだ。

「ワシが太ったと言ったか?」
「十分に聞こえてるじゃないですか……」
「失礼な奴じゃ」
「でも、本当に普段より大きく、と言うより、かさ増しして見えたんです」

マジマジと椎名を眺め、やはり何かが違う、と華は思った。
もっとも、何かが違うとは思うが、太っている、と言うには少し違う気がした。

服の上からでも見て取れる細身に変わりはなく。
強いて言うなら……


「あっ、冬仕立てになったんですね!」
「何がじゃ?」

ポン、と手を打ち一人納得する華。
眉を寄せて椎名は聞き返した。

「でも、服があるのになるのって逆に暑いような気が……」
「だから、何がじゃ」

一人で納得し、疑問を自己完結しそうな華に、イライラとしながら椎名は再度訊いた。

「だから、園長「冬用に毛が替わったんだろ」

華の言葉を横取りした人物は、椎名を後ろから抱きしめた。

「う、丑三ッ時水族館の館長!?」

華の驚きの声を軽く無視した伊佐奈は、確かめるように椎名に触った。


「確かに、この前よりフワフワしてるな」
「何をするんじゃ!!」
「スキンシップだ」
「気色悪い! 脱兎のごとく自分の水族館に帰らんか!! お前が触るとじめっとするじゃろ!!」

服が湿った状態のまま抱きしめる伊佐奈に、暴れながら椎名は怒鳴った。
あます所なく椎名を触っていた伊佐奈は、堂々と宣言した。

「後で俺が乾かしてやる、だから、そう怒鳴るな」
「いらん!」
「遠慮をする「しとらんわ!!」



普段増しの
離れ難い冬毛の手触り。


「あれ……私存在忘れられてる…?」


end
(2010/10/28)
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