逢魔ヶ刻動物園

「伊佐奈、お前は何処から人の姿に戻ったんじゃ」
「ん? ……何処からでも良いだろ。肝心なのは人間の姿に戻るこ「ワシにとって死活問題なんじゃ」

真剣に身を乗り出すように迫る椎名に、伊佐奈は首を傾げた。


「…………何か問題でもあったか? ようは人の姿に戻りさえすれば途中過程はどうでも良いだろ」
「嫌じゃ、もし中途半端に戻ったらどうする積りじゃ」
「今まさに、俺がその状況だ」

それは皮肉か何かか、と言いたげな伊佐奈を無視し、椎名は断言した。


「もっと中途半端にじゃ」

何を言っているんだ、と椎名を見る伊佐奈は、いまひとつ椎名の言いたいことが分からなかった。


「もしもじゃ、ワシの耳だけが最後まで戻らんかったらどうなると思うんじゃ」
「ああ、なるほど。可愛いんじゃないか?」
「……言い残す言葉はそれで良いんじゃな、伊佐奈?」

ギッ、と睨む椎名に、本当の事を言っただけで何で怒るんだ、と理不尽さに伊佐奈はため息をついた。



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中途半端にならない事を祈る。


end
(2010/10/27)
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