逢魔ヶ刻動物園

「椎名」
「何じゃ」
「俺達は人間の姿に戻ったら、二度とあいつらとは話せなくなるだろうな」


さも嬉しげに言われた言葉。
早くその時が来る事を願うような声。
それらに、咄嗟に反応はできなかった。


「人間の姿に戻る、そうなれば必然的に力も無くなる。それは、動物や魚を話せる姿にする事ができなくなるのと同意義だろ?」

丁寧に述べられる考察。
バカバカしいと一笑することはできなかった。

「嬉しい事だな、それとも、お前にとっては悲しい事か? お前は随分と獣達といる事が楽しそうだったからな」

コツリ、コツリと音を響かせ近づく相手。
目の前まで来た相手に、椅子に座っている状態だというのに、無意識に後退ろうとした。


「人間の姿に完全に戻った時、客の事もあいつらと話すことも考えなくていいのなら、俺は嬉しいと思う」


優しく言い聞かせるような声は、反応を待つかのように途切れた。
暫くの間途切れた後、問うように言葉は投げかけられた。


「椎名、お前は人間の姿に戻りたいか?」
「戻りたいに決まってるじゃろ」
「完全に戻った時、動物は動物でしかなく、二度と話すことができなくなってもか?」
「…………愚問じゃ」

相手の顔を見ずに答えれば、目の前の相手は嘲笑った。


「お前は嘘つきだな」


ゆっくりと屈み込みながら、囁かれた言葉は、耳に残った。



いつか、その時は来る
それまで、夢幻の中で楽しめればいいな?


end
(2010/10/24)
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