逢魔ヶ刻動物園

一面が本だった。

本来ならば自室が広がるはずの視界。
それが今、本に埋め尽くされていた。


「勝手に来とるぞ、ヘルメットマン」


本を棚から引き出してはパラパラと中を見て、つまらなければ床へと落としていく相手。

「……何処から来た?」
「ドアからに決まってるじゃろ」

さも当然と言う相手。
胸を張って言える言葉かと呆れ、勝手に入れたであろうシャチに沸々と怒りが込み上げてきた。

「片付けるのが面倒だから止めろ」
「つまらん本を置く方が悪いんじゃ」
「俺の部屋に面白そうな本があると思うな」
「これだけ本があるんじゃ、面白そうなのがあると思うのが普通じゃろ?」
「経営に必要だからだ」
「そのわりには、魚の本もあるんじゃな」

ようやく興味のある本を見つけたのか、床に落とさずページをまくっていた。
文よりも写真の方が多い本。

「商品に少しでも長く働かせるためだ。値が張るやつもいるからな」
「あいかわらずじゃ」

パタン、と本を閉じ。
本に落としていた視線を上げ不敵に笑ってきた。

「借りてくぞ」

人の本を片手で持ち、ヒラヒラと振りながら出て行く相手。
いっそ、二度と来るなと思ったが、口から出たのは逆の言葉だった。


「返しに来いよ、兎男」
「そのうちにじゃ」



荒らされた本棚
自分の言葉を疑問に思うのは、その後。


end
(2010/11/29)
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