逢魔ヶ刻動物園

いつもならば、大量の歓声と煩いほどの雑音で満たされる館内。
それは今、水を打った様に静かだった。

「何で館内じゃ?」
「俺達の姿で、軽率に外に行けると思うか?」
「ワシは面白かったらどこにでも行ける」
「……此処は嫌か?」
「いや、構わん。おまえの所も少し興味があったんじゃ」

言っている傍から、一人で水槽から水槽を見て回る勢いの椎名。
その後を遅れないように歩きながら、時折訊いてくる質問へと答えた。

まるで子供だなと呆れ。
好奇心のままに行動する様子を眺め、そう言えばこいつは子供の頃に呪いをかけられてたなと妙に納得した。


「椎名、楽しいか?」
「何じゃ? おまえはワシに面白くもないものを見せたつもりだったのか?」
「まさか」


そんな事、するわけがない。
例え幹部達に呆れられようと(もっとも、呆れ顔を見ればその場で制裁を与えるが)、椎名のためだけに館内を貸し切ったのだ。
面白くないと思わせるのは水族館の名折れであり、何より……


「お前が要求したことだろ?」



要求内容
所望は、面白い共有時間。


end
(2010/11/06)
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