逢魔ヶ刻動物園

ぼんやりと目を開け、まだ日の明けない外へと目を向けた。


「……嫌な夢じゃ」


誰かと話そうと思っても、園の獣達は元の姿に戻っている。
そっと上着を肩にかけ、園の外へと向かった。

明け方近く、まだ閉館をしている館内へと足を踏み入れ、
不気味なほどの静寂の中、一つの水槽へと対面した。


「何か用か、椎名?」

ガラスを挟み、水の中にいる相手。
こんな時間に、とも文句を言わない相手は問い掛けるように訊いてきた。

「……おまえのせいじゃ」
「生憎と、何かした覚えはないが?」
「人の夢にまで出ておいてよく言えるものじゃ、厚かましい」
「逆恨みだろ」
「そんなことは知っとる」

静かな館内に響く会話。
時折水槽の中で、気泡が小さな音を立て上へと昇る以外、雑音はなかった。


「俺の夢……か。それで? 椎名が来た理由は、夢見が悪かった文句を言うためか?」
「獣共が今は話せないんじゃ」

意味をとらえかねた様に黙った相手。
次には肩を震わせながら笑い出した。


「素直じゃないな、椎名。寂しかったなら、早くそう言えば良いだろ?」
「……その水槽、壊しても良いんじゃな?」
「まあ、待て。早まるな。そんな事をしなくても今すぐそっちに行く」



夢の後
「会いたかったなら、素直にそう言え」
「減らず口じゃ……」


end
(2010/10/30)
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