逢魔ヶ刻動物園

「さして繁盛もしてないくせに、どうして戻った?」


頭を踏みつけ、床へと押し付けながら、死人のように濁った目をした相手は訊いてきた。


「知るか」

吐き捨てるように言えば、そうか、と軽く了解され、頭に乗っていた足はゆっくりと重さが消えていった。

「そんな理由で、満足する訳がないだろ」

ガッ、と一層強く踏みつけられ、靴底の感触に顔を顰めた。

「どうしてお前だけ何もしていないくせに戻ったんだ? 来客数、知名度、それら全てが劣っているお前の方が、どうして戻った?」
「何じゃ……お前、ワシが何もせず戻ったことに腹が立ってるのか?」


睨みながら言えば、相手は不快そうに仮面に覆われていないほうの顔を歪めた。
まるで、汚れを拭うかのようにこすり付けられていた靴は、またゆっくりと上げられた。
そのまま、もう一度踏みつけられるかと思ったが、何を考えたのか、いつまで経っても衝撃は来なかった。


「残るのはこの顔だけなんだ、これさえ戻れば俺は完全に人間に戻れる」


独り言を呟くように言われた言葉。
ゆっくりとしゃがみ込んだ相手。
どろりと濁った目が自分を映した。


「答えれば、お前が人間の姿に戻る手伝いをしよう。少し長くなるが、もっと知名度を上げ、客が入るようにしてやる」

いまだ戻っていない兎耳を片手で一まとめに掴まれ、顔を上げさせるように持ち上げられながら、提案をするように言われた。

「ギブアンドテイク、もっとも考えてみれば破格の提案だと思うが? お前は片手以外戻っていない、それに対して俺は顔の半分さえ戻れば良い。どちらがこの案でより利益を得るかと言えば、お前だ」
「聞こえるか、ボケ」

明確に響いてくる言葉を否定し、相手を睨めば、悲しげに、哀れなものを見るような目が向けられた。

「動物は、やはりバカだな」
「ワシは人間じゃ」



口がある
それだけでは意味がない。

「会話で分かり合うのは無理な話か」


end
(2010/10/19)
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