桔ザク

「珍しいなバーロー」
「ハハン、私も人間ですから」
「まあ、そうだけどな」

咳をしながらベッドに横になっている桔梗を見ながら、ザクロは珍しい事もあるものだと再度思った。

「何かいるか?」
「特にはいりませんよ」
「そうか……粥ならあいつらが作るって言ってたぜバーロー」

緩く目を閉じていた桔梗は、あいつらと言う言葉に、閉じていた目を開け起き上がった。

「おい、寝てろよ」
「寝ていられる訳がありません」

制止するザクロを退け、ヨロヨロと歩きながら、目だけは据わっていた。


「……やはり、こうなりましたか」

目の前の惨事を見ながら、桔梗は別の意味で頭痛がしてきた。

「ぼばっ……桔梗?」
「ニュッ! 桔梗は寝てなきゃ駄目でしょ!」

ドロドロの半固形物を混ぜていたデイジーとブルーベルが振り返り驚く様を見ながら、額に手を当てていた桔梗は口を開いた。

「お粥も何もいりませんから、今日一日大人しくしていてください」

忠告をした後、熱が余計に上がった様に目眩がした。
すぐ後に来たザクロに支えられベッドまで引きずられながら、本当に、何も食べたくないと桔梗は思った。


「バーロォ、見ろ熱が上がっちまったじゃねーか」

声を出すことさえ億劫で、言い返すことはしなかったが。
体温計をわざわざ見せながら、文句を言うザクロに、誰の監督不行き届きのせいですかと、桔梗は言い返したかった。

「粥だバーロー」
「……貴方が、作ったのですか?」
「他に誰がいるってんだ」

ブルーベル達が作ったのは食いたくねーんだろ、と言うザクロ。
その言葉に、出来れば始めから気づいてほしいものでした、と桔梗は膝の上に乗せられたトレーを見ながら思った。

ゆっくりとお粥を食べ終わった桔梗は、次にザクロが渡してきたコップに首を傾げた。

「……ザクロ、これは何ですか?」

冷静にコップの薄赤茶色の液体を眺めながら、桔梗はザクロへと聞いた。

「ミミズの煮汁だバーロー」
「ハハンッ……遠慮します。後は寝ていれば治りますから……」

やや引き攣った笑みで改めてコップに注がれている液体を見た桔梗は、その中にミミズのでがらしが残っているのを見つけてしまった。
完全に固まってしまった桔梗を見て、ザクロはベッドサイドに突っ伏し爆笑した。

「バーロォ、冗談に決まってんだろッ、熱冷ましにしても普通に考えてミミズの煮汁はねーだろ」
「貴方が言うと、冗談に聞こえ無かったのですが?」

真顔で問い返した桔梗は、ため息をついてサイドテーブルへと冗談の代物を置いた。

「早く治せ、バーロー」

ひとしきり笑い終えたザクロが呟いた言葉に、またため息が出た。

「そうですね……貴方が冗談を言わず、ブルーベル達が大人しくしていれば、早く治るかもしれませんね」

今日一日を思い出し、気疲ればかりした桔梗は、少しだけ皮肉気に言い返した。



冗談も程々に
治るものも治らなかったら大変ですから。


end
(2010/08/14)
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