桔ザク

桔梗が、花を背負って歩いてくる。
比喩ではなく、正確に言えば背負うと言うより抱えて歩いてきた。

「何やってんだバーロー」
「ハハン、白蘭様が懲りずに入江正一に渡し、突き返された物です」
「……懲りるって言葉知らねーのか? あの人はよぉ」
「まったくですね」

呆れながら机の上に山ほどの青い薔薇を置いた桔梗は、ザクロの言葉に共感した。

「わざわざ改良を加え、より鮮やかな青にしたそうです」
「無駄な努力だなバーロー」
「いつになれば無駄な事だと諦めていただけるのでしょうか?」
「この調子じゃ、一生気付かねーだろ」
「ハハン、そうかもしれませんね」

ポジティブ。
どれだけ平行世界で失敗しようが、この世界では成功するだろうという希望的観測。
突き返される花を飾る身にもなって欲しいと、ため息を同時につきながら二人は思った。

「貴方に似合いそうですね」
「髪に飾ろうとすんなよバーロォ」

呟かれた言葉に条件反射で返答したザクロは、黙々と花を分けていた。

「ハハン、これほど多いのですから、一輪ほど挿しても良いではありませんか」
「自分の髪にでも飾ってろ」
「つまらないですね……」

残念そうに言う桔梗をザクロは睨んだ。
寝ている間に髪に花を挿されたことは数知れず。
気付かずにブルーベルに笑われた事もあった。
隙あらば悪戯をしようとする相手に対し、怒鳴りつけたい気分だった。

「ハハン、では私はブルーベルの部屋に飾ってきます。貴方はデイジーの部屋をお願いします」
「わかったぜバーロー」


花を抱えて着いたデイジーの部屋の前。

「入るぜバーロー」

行儀の悪い事だと桔梗に忠告されそうだが、ザクロは声を掛けただけで、返事を待たずに扉を開けた。
部屋へと入ると、いつものウサギのぬいぐるみを抱えたデイジーが、薄い絵本を読んでいた。

「あれ……ザクロ?」
「白蘭様がまた花を突き返された」
「…………そうなんだ……」

驚いたように絵本から視線を外したデイジーは、簡潔なザクロの説明に、やや哀れみを籠めたような返答をした。
その後も、物珍しいのかデイジーは青い薔薇をじっと眺めていた。

「……えっと……似合ってるよ、その髪飾り……」
「ああ?」

部屋の花瓶へと花を入れ終わったザクロは、デイジーの言葉に自分の髪へと触れた。

「またやりやがったなバーロォ!!」



花飾り
「ニュ? 桔梗ー、何かザクロの声がする」
「ハハン、ようやく気が付きましたか」


end
(2010/07/21)
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