桔ザク

「衝撃のシーンを撮影しましたー、欲しければ一枚一万円で売りすよー?」

飄々とした様子で言うフランに、桔梗は眉を寄せて相手を見た。

「……何故それを私に言うのですか?」
「別にいらないならスクアーロ隊長やルッス先輩に売り渡しますー」
「癇に障る言い方ですね」
「余裕の態度の所すみませんがー、あの紅髪の人の寝顔でもそう言えますかー?」

ピロッと一枚の写真を桔梗に見せつける様に摘みながら無気力気味に言うフラン。
さぞ慌てるかと思いきや、桔梗は表情すら変えなかった。

「あれ? 無反応ですかー?」
「ハハン、寝顔ぐらい、いつでも見れますから」
「じゃあしかたありませんねー。他の人に売りつけますー」
「待ちなさい」

早々に立ち去ろうとするフランを弦で拘束し引き止めた桔梗は、その顔に冷笑を湛えていた。

「放してくださーい、SMの趣味なんてミーにはありませんからー」
「ハハン、誰が貴方相手にそんな事をしますか。ザクロの写真を置いていきなさい」
「良いじゃないですかー。寝顔ぐらい、いつでも見れるってさっき言ってたじゃないですかー」
「他人に見せるつもりはありません」
「ささやかなオカズを他人に渡さないなんて器が狭いでーす」
「下賎な欲望の対象にさせないために言っているのです」

渡す気のないフランを縛り上げながら、どす黒い空気を漂わせる桔梗。
困りましたねー、と内心で余裕を持ちながら思うフランだったが、始めに見せる人選を間違えたと少しだけ後悔していた。

「わかりましたー、全部込みで十万円で渡しますよー」
「……本気で死にたいようですね?」
「まってくださーい、そんなにギチギチに締められると内臓が出そうなのでやめてくださーい」
「ハハン、渡す気になったら、解いてあげますよ」

表面上だけは優しく言う桔梗だったが、締め上げる弦を緩めるつもりはまったくなかった。


「酷い目にあいましたー」

桔梗の締め上げから、写真一式を手放す事で開放されたフランは、反省した様子もなく廊下を歩いていた。

「あ」

反対方向から来たザクロを見て、軽く声を出したフラン。
自分が来た方向へと歩いていくザクロに向かい、すれ違いざまに呟いた。

「独占欲の強い彼氏を持つと大変ですねー」
「ああ? 何の事だバーロー?」
「こっちの話しでーす」

何の事かと振り返ってきたザクロに、軽く返答しながら、フランは次の作戦を考えていた。



懲りはしない
『次は始めにスクアーロ隊長達に売りつけてやりますー』


end
(2010/07/19)
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