桔ザク

桔梗を一言で表すならば、誰もが口を揃えて優しいと言う。
柔和な顔に笑みを湛え、丁寧な受け答えをする桔梗は確かに優しいように見える。
しかし、なら誰もが優しいと言うならば、今目の前にいる奴は偽者かと悪態をつきたくなった。

「ザクロ、口がお留守になっていますよ?」
「んっぅ……!」

髪を掴み無理矢理促す桔梗の何処が優しいものかと、喉の奥まで突く勢いの桔梗のものを口から出し咽た。

「大丈夫ですか、ザクロ?」

さも心配そうに聞き、顔を掴み自分の方へと向けさせた。
相手が荒い息をたてて呼吸をし、生理的な涙で濡れた目が睨もうと、さして気にした様子もなく桔梗は言葉を続けた。

「まだ、あまり鍛えもせずもう限界ですか?」
「何とでも言え、バーロー」
「ハハン、威勢だけいいですね」

クスクスと笑いながら相手の態度を楽しむ桔梗は、さて、と問いかけてきた。

「貴方が中途半端にしたものをどうしましょうか?」

中途半端と言いつつ十分な強度を持ったソレを見て、忌々しげに桔梗を睨んだ。
睨まれている事に気がついているはずの桔梗は、甘い笑みを向け口付けてきた。

「まだする気かバーロォ」
「もちろん、貴方に処理をして頂きますよ。上の口は疲れたようなので、今度は下の口で」
「自分で処理してろ、気狂い野郎」
「ザクロ、貴方はその言葉を私に向かい何回使いましたか? そして、そのたびに何度与えられる快楽に溺れましたか? 説得力のない言葉ほど、虚しいものはありませんよ」

嘲る桔梗に、つくづくいい根性してやがると舌打ちをした。

「ハハン、もっとも、私は貴方のそんな態度も大好きですが」
「光栄だなバーロー、俺はテメェなんか大ッ嫌いだぜ」
「おや、あれほど出会ったばかりの頃は気を許していたと言うのに、随分と嫌われたものですね」

心外だとばかりに、その理由を知っていながらとぼける桔梗に、殺意で人が殺せたらと思った。

「ザクロ、嫌ならば死に物狂いで抵抗すればいいだけですよ? 抵抗とも言えない悪態を吐くだけでは了解しているのと同じです」
「死に物狂いで抵抗して、その後テメーは何したってんだ、強姦魔」
「ハハン、最後には泣いてあられもなく私を求めたのは誰でしたか?」

思い出したくもない事をまざまざと言われ、顔を顰めた。
その様子に、桔梗は意地悪く問いかけた。

「貴方がどうしてもと言うのならば、優しくしてあげましょうか? 貴方は優しい私が好きだったようですから」

それは、知らなかったからだ。
上辺だけを信用した自分がどれ程バカだったか理解している。
現状を知っている今、どれだけ言葉を並べられても忌々しいとしか感じなかった。

「どっちも嫌いだバーロー」
「ハハン、残念ですね……私は貴方のことが大好きですよ。どんな手段を使っても手に入れたいほどに」

嬌笑をしながら、いとおしげに言われた言葉は、何の慰めにもならなかった。



優しくなんかない
「さて、お喋りは此処までにしましょうか、ザクロ」


end
(2010/06/19)
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