桔ザク

「何作ってんだバーロー」

顔を顰め、部屋中に漂う強烈な甘ったるい匂いを嗅ぎたくはないとばかりに鼻を覆ったザクロは。
今まさに作業をしている桔梗へと訊いた。

「ハハン、何、と申されましても、キャラメルを煮詰めている途中ですね。それからレアチーズケーキ用のタルト生地を焼いています」

それがどうかしましたかと言わんばかりに首を傾げる桔梗。
あからさまに不快そうな顔をしたザクロは、コーヒーを頼もうとしていた口を結び一歩後ずさりした。

「ザクロ?」

ドロリと煮詰めたキャラメルを固まらないうちにバターを塗ったバットに流しいれてから。
問い返すように名を呼んだ桔梗は空になった鍋を置き、ザクロへと近づいた。

「バーロォ! 俺に二度と近づくな!!」

脱兎のごとく部屋から飛び出したザクロを呆気にとられたように見送った桔梗は、暫く考えてから、作業へと戻った。


「失礼します、ザクロ」

丁寧なノック音をさせてから、桔梗はザクロの部屋へと入っていた。

「バーロー、近づくんじゃねぇ」
「ハハンッ、あからさまに不快そうにしなくとも、もう甘い匂いはさせていませんよ」

椅子の背もたれへと凭れ掛かりながら、本当かよと訝しげに睨んだザクロは、桔梗が持っている物を見て、また眉を寄せた。

「……嫌がらせか? タルトなんか持ってきやがって」
「タルトが甘いと、誰が決めたのですか?」

クスクスと苦笑を零しながら、桔梗が机の上へと置いたトレーには。
頼もうとしていたコーヒーと、綺麗に焼き目の付いたキッシュ。



お茶の時間
「ハハン、いりますか?」
「……いるに決まってんだろバーロー」


end
(2010/06/11)
85/100ページ